サケは奈良時代から知られており、『常陸国風土記』と『出雲国風土記』に鮭(さけ)として現れる。この後も、平安時代から江戸時代まで、多くの文書に、鮭、?C、年魚などとして記載されている。
サクラマスも『出雲国風土記』に麻須(ます)として現れる。奈良時代以降、近代まで鱒(ます)という字で多くの文献に登場する*。
このように古来、本州以西にすんでいた日本人にとって、なじみのあったサケ科魚類でサケといえばサケ(シロザケ)、マスといえばサクラマスのことであった。近代になって北洋の水産資源が開発され、サケと同じようにカラフトマスも利用されるようになり、北洋漁業ではサケとそれ以外のマス、つまりカラフトマスおよびサクラマスを含むサケ科魚類をサケ・マス類と呼ぶようになったようである。
英語にも、salmon (サマン、サーモン) と trout (トラウト) がある。ヨーロッパのタイセイヨウサケ属 Salmo には、降海性の強い
S.salar**と河川生活性の強い S.trutta***がいる。 これらをそれぞれ
salmon, trout と呼んだ。北アメリカに進出したヨーロッパ人が太平洋岸で様々なサケ科魚類に出会い、海に下るものには salmon (chum salmon サケ、
king salmon マスノスケなど) 、もっぱら川や湖で生活するものを trout (rainbow trout ニジマスなど) として命名したと思われる。
明治以降、海外から様々なサケ科魚類が日本に持ち込まれるようになった。その時、英名を直訳し、troutにマス、salmonにサケを当て、たとえば、
rainbow trout をニジマス、 silver salmon (または coho salmon) をギンザケなどとしたために名前の混乱が生じたようである。
参考までに、資料館に寄せられる問い合わせから判断すると、多くの場合、サケは “新(荒)巻ざけ” にするサケ(シロザケ)、マスはサケ類にしては筋肉の色が淡いカラフトマスのことをイメージしているようである。
*中部日本から西日本の文書の鱒はヤマメやアマゴ(降海型はサツキマス)、近江国のものはビワマスの可能性もある。
**北部北大西洋に分布するタイセイヨウサケのことで、現在、ノルウェーなどから海中養殖されたものが大量に輸入されている。北アメリカには陸封型もいる。
***ヨーロッパに生息するトラウトのことで、陸封型(ブラウントラウトと呼ばれる。日本にも移植され、定着している)以外に、降海型(シートラウトまたはサーモントラウト)もいる。 |